2007年5月2日水曜日

映画「わかれ雲」 2

この映画を見た日の日記に、当時の「週刊朝日」に載った批評の全文を書き写している。900字を超えるが、引用する。
スタジオ・8プロダクションの第1回作品。新東宝の芸術祭参加作品だが、独立プロの悲しさに諸事切りつめた無理が目立つ。(例へば殆ど信州ロケで撮りながら、セリフは全部アフレコ、口とセリフが合わない場合多し)そうした技術的方面では東宝の「めし」などに著しく劣る。が、これは四年振りの五所監督作品として珍しいし、また捨てがたい抒情味もある小品である。ラジオ小説から五所、館岡、田中(澄江)が協力脚色し、信州の小淵沢の町のみすぼらしい宿屋、そこに泊まった女子大生、真砂子(沢村契恵子)と村の保健所の青年医師(沼田曜一)の淡い恋を描く。旅で発病した少女は宿の女中(川崎弘子)の看病を受けるが、ヒネクレ娘である。亡き実母を慕い、継母(福田妙子)を嫌う為のヒネクレ根性が医師への思慕と、無医村の実情をを知ることなどで、次第にとけて行く。どうもそのとけ方は、新人沢村の未熟さで思うようにいかず、前半の不自然な硬直ぶりと、後半のハシャギ方の違いがあまりに目立つ。この映画を新宿の映画館まで(見に:引用者補注)行った筆者は、しかし往年の五所監督の秀作『伊豆の踊子』を想起した。ということは、この女学生趣味のセンチメンタルな抒情味に彼の古風さが出ていると同時に、また半面では、彼独特の美しい詩味も発露しているということ。たとへば川崎弘子のおちぶれ者の女中自体が五所的人物の哀愁だが、宿の亭主(中村是好)の描き方など逸品であり、その他女将(岡村文子)と娘(倉田マユミ)や同宿のイカサマな旅廻りの舞踊団の連中を配した安宿風俗が、それ自体信濃風物詩なのである。またセットを使わず、旅宿の内部まで実景を使用したが、その風物詩は三浦光雄の軟調の撮影効果に依ってこそ活きている。戦後は軟調が流行しないが、三浦技師は悪条件にもかゝわらず、よく主題にふさわしい効果をあげた。青年医師を甘ったるく描かなかったのもこの作の長所だが、訪ねて来た父(三津田健)と娘の出会いも淡々として味がある。但し、茂原式のフィルム色調を三ヶ所ばかり採用したのは感服できない。五所監督の再出発を祝福したいし、沢村や沢田(倉田の写し間違いか?:引用者注)の新人たちにも若干の望みを嘱する。(Q)
この批評文を掲載していた「週刊朝日」がいつ発行されたものか分からないが、批評家(Q)が新宿までこの映画を見に行ったと述べているので、インターネットで調べたところ、

新宿昭和館・昭和二十六年 (1951) 上映作品
 11/23(金)~29(木)
 「わかれ雲」沢村契恵子/沼田曜一  監督:五所平之助【当館封切】

という情報がヒットした。おそらく評者は、新宿昭和館でこの期間にこの映画を見たと考えてよかろう。そうだとすれば、11月下旬から12月中旬までの間に発行された「週刊朝日」に掲載されたものと推測できるし、ひと月遅れでこの映画を見た鳥取の高校生が、その日の日記にこの批評文を書き写すことができたわけだ。

2 件のコメント:

  1. 小林 大二2011/11/14 13:16

    小淵沢は信州ではなく、山梨県北巨摩郡(現在は北杜市)です。国鉄小淵沢駅周辺でロケをしてます。

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  2. ありがとうございます。
    ご指摘いただくまで、小淵沢は長野県だと思っておりました。
    (ごうな)

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