2010年4月10日土曜日

NHK朝ドラ「ゲゲゲの女房」

先週の月曜日(三月二十九日)、NHKテレビで朝の連続ドラマ「ゲゲゲの女房」が始まった。水木しげるの奥さん、武良布枝(むら ぬのえ)の同名の作品のドラマ化である。

今や世界の共通語となった「マンガ」だが、戦前の日本のこどもたち(とくに男の子たち)が夢中になったマンガは、阪本牙城の「タンクタンクロー」(大日本雄弁会講談社の雑誌「幼年倶楽部」1934年(昭和9)1月号から1936年12月号にかけて連載)、島田啓三の「冒険ダン吉」(1931-1939年「少年倶楽部」)、田河水泡の「のらくろ」(1931-1941年「少年倶楽部」)などであった。
1934年生まれのわたしには、幼稚園時代に買ってもらった「キンダーブック」や講談社の絵本はあったが、これらのマンガを掲載している雑誌や布装丁の単行本を読むためには、それらを所有している兄や姉がいる同級生に借りるほかなかった。
その後のマンガで記憶に残っているのは、戦後まもなく、「小学生新聞」(正確な紙名は失念)に連載がはじまった医学生のお兄さんの作品と紹介されていたマンガ(題名はこれまた失念)の絵を好ましく思って、その絵をまねて描いたりしたことがある。そのお兄さんが手塚治虫だった。以来、マンガを読んだことはない。
前世紀の90年代に、たとえば、呉智英や関川夏央たちがマンガを論じているのを読んで、ふーん、と思ったことがあっても、マンガを読んだことはない。

昨年の十一月末に、再放映されたNHKの「プロフェッショナル 仕事の流儀 /闘いの螺旋、いまだ終わらず~漫画家・井上雄彦」を偶然見て驚いた。『バガボンド』と言うマンガが吉川英治の『宮本武蔵』であることもはじめて知ったが、武蔵の大写しの顔を描くためにあれだけ考え、悩み、意を決して一気に描く仕事ぶりと描き上げた絵を見て、さらに驚いた。これもマンガか!

そんなわたしも、娘たちが見ていたテレビを通してであろうか、
ゲッゲッ、ゲゲゲのゲー/朝は寝床で グーグーグー/たのしいな たのしいな/おばけにゃ 学校もしけんも/なんにもない/…
という歌を憶えている。
何年か前、境港市に用事で出かけた折に、妖怪たちのブロンズ像が並ぶ通りを歩いたこともあった。しかし、いまだにそのマンガを読んだことはない。

先週の月曜日(3月29日)から、NHKのテレビ、ラジオの番組が新年度の番組に変わった。番組名の変わったものもあるし、新番組もスタートした。連続テレビ小説、いわゆる「朝ドラ」も、8時から「ゲゲゲの女房」が始まった。脚本は山本むつみ。原作は、ドラマの題名からいっても、水木しげる(武良茂)の妻、武良布枝(むら・ぬのえ)の『ゲゲゲの女房』といっていいだろう。  

水木しげるについては、かつてこのブログでも紹介した『昭和二十年夏、僕は兵士だった』
にあるように、九死に一生を得た体験の持ち主であることも承知していた。(ただ、このドラマが始まった日の早朝、午前0時台から再放映されたNHKスペシャル「鬼太郎が見た玉砕」
http://www.nhk.or.jp/nagoya/kitaro/midokoro.html

を見逃したのは、まことに残念であった。)

このドラマが始まる前に、原作の『ゲゲゲの女房』を読んでみた。さきほど述べたように、
歌の文句は多少覚えてはいたが、どうして「ゲゲゲの鬼太郎」や「ゲゲゲの女房」なのか、まったく分かってはいなかった。鳥取県西部の米子や境港ではどうか知らないが、東部の鳥取では、子供のころ、(いちばん)ビリのことを「ゲゲ」といっていた。「下々」とか「下の下」の意であろうか。現在のこどもたちが使っているか、どうかは知らない。
この本を読んでやっとわかった。

『ゲゲゲの鬼太郎』というタイトルも水木の発案でした。
「オレが小さいころ、シゲル」といえず、自分のことをゲゲルといっていたから、「ゲゲ」とガキ大将仲間から呼ばれていた。だからゲゲゲの鬼太郎でもいいんだ」
水木はそういって笑っていました。(p.152)

これなら「ゲゲゲの女房」すなわち「(みずき)あるいは(むら)しげるの女房」だ。

さて、朝のドラマがはじまって、ちょうど2週間になった。先週は布美枝の子供時代。7歳の布美枝役の菊池和澄(あすみ)、10歳の布美枝(佐藤未来)、祖母役(ナレーションも)の野際陽子らが好演。今週はのっぽのヒロイン、布美枝役の松下奈緒登場。なかなかいい。ワンマン亭主の大杉漣は流石、もの静かで控えめの妻役、古手川祐子もいい。
この2週間のドラマは、原作では[第1章 静かな安来の暮らし]で、20ページあまりのなんの事件もない序章的な部分だ。
脚本の山本むつみは、金曜時代劇「御宿かわせみ」でデビュー以来、幅広いジャンルの作品を手がけてきただけあって、さすがと思わせる。来週からが楽しみだ。

最後に、「NHKウィークリー ステラ」4/2号に掲載されている武良布枝さんの談話の一部をご紹介しておこう。
主人は、何ひとつ私に甘い言葉をかけてくれるわけではないし、ロマンチックなこともぜんぜんなかったですね。でも、一生懸命仕事に打ち込んでいる彼の姿は、私の中では輝いていたんです。本当に努力の人でしたから。あれだけ努力した人間が報われないことはないと、心のうちでは思っていました。(中略)私はもちろんですが、主人も、『ゲゲゲの女房』が朝ドラの原案になったということは、心の中で大いに喜んでくれていると思います。ここまで元気でやってこられて、こうして喜ばしいことがまた生じて――。本当にみなさまに感謝しております。このうえは、多くの方にこのドラマを見ていただけるよう、お祈りしております。(p.11)
  

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