2011年1月30日日曜日

当世キーワード(20110130)

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今日は1月5度目の日曜日なので、当世キーワードはいつもの亀井肇さんではなく、NHK放送文化研究所の田中主任研究員による「最近の言葉の話題」であった。聞き手はいつもの佐塚アナ。(ご両人は、T、Sで表す。)

S)年が改まって2011年、あっと言う間に1月も終わりに近づいてきましたが、今日は「年の初めの挨拶について」ということですね。

T)はい、「新年 明けましておめでとうございます」という挨拶の言葉について、考えてみたいと思います。佐塚さんはこの言い方が気になりますか。

S)あまり気になりません。元日(朝5時台)に「おめでとう あさいちばん」という放送があって、全国の皆さんに「新年、明けましておめでとうございます」と言った記憶がありますが…。

T)この言葉は「新年」と「明けまして」と意味が重複しているのではないか、と違和感を持つ方が結構あるらしく、放送でこの言葉を聞いた視聴者の方から、たまにそういったご指摘を頂くこともあるようです。

S)気にすれば気になるかなあ。

T)ただ重複といっても、言葉が重なっているから直ちに間違いと言えるかというと、そうでもないと思います。
一般に重複表現と言われているものは、たとえば、「白い白馬」とか「日本に来日する」といったものですが、これらは明らかに重複表現で使うべきではないと考えます。
ところが、「歌を歌う」「犯罪を犯す」「一番最初」などについては、文字で書くとかなり重複感があるが、とくに話し言葉として使用される場合、意味を強調するための表現ということで、許容の範囲内ではないかと考えています。

S)使ってますねえ、確かに。

T)重複しているからすべておかしい、ということではないわけで、この「新年 明けましておめでとう」についても、年が改まった、おめでたい気分、様子を強調する表現ということで、とくに話し言葉としては許されるのではないか、と考えています。

S)間違いとまでは言えないということですね。

T)ほかにもいくつか、この「新年 明けましておめでとうございます」が間違いとまでは言えない理由が考えられるのです。一つは「新年」と「明けまして」の間に切れ目があるという考え方ですね。

S)「新年」そして「明けましておめでとう」と間隔があるわけなんですね。

T)「新年(いよいよ新年ですね)」で、「明けましておめでとうございます」と。それがちぢまって「新年 明けましておめでとうございます」という言い方になった―そういう考え方ですね。
さらには、そもそも「新年が明ける」という言い方そのものが決しておかしくないという考え方があるわけなんです。

S)と言いますと…?

T)普通、「年が明ける」というふうに使いますね。この場合「年」というのは「古い年」つまり「去年、2010年」を指していると考える訳です。ところが、「古い年が明ける」だけではなくて、この他に「新年が明ける」といういい方もあるのではないか、―こういう考え方もあるんですね。
実際、国語辞典のなかには、この「明ける」という言葉の使い方の一つに「新年が明ける」という用例を挙げているものもあります。「古い年」が明けるだけでなく「新年」が明ける、「夜が明ける」だけではなく「朝が明ける」というような使い方ですね。
日本語の表現の中にはこうした、やや特殊な言い方があるんですね。

S)こうした特殊な言い方、ほかにもありますか。

T)ええ。よく言われるのが「お湯がわく」。事実関係を厳密にいうと、「水をわかしてお湯になる」だが、日本語ではそれを「お湯がわく」あるいは「お湯をわかす」というわけですね。
それから「豚カツを揚げる」もそうですね。事実関係に即して厳密にいうと、豚肉に衣をつけて油で揚げているのを「豚カツを揚げる」という言い方をするということですね。
それと同様に年が明けると新年になるので「新年が明ける」と言う。つまり「新年が明けましておめでとうございます」もありではないか、という考え方なんですね。

S)なるほど。こうして聞いていると、いちがいに間違いとも言い切れない、という感じがしてきました。

T)ただ、自分ではどうしても認められないという方もいる以上、どちらかというと、使わない方が無難だと言えるかもしれません。

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