2010年10月31日日曜日
当世キーワード(2010年10月31日)
今日は今月五度目の日曜日なので、亀井肇さんの当世キーワードはなく、VTRという言葉の意味・使われ方について、NHK放送文化研究所の杉原満さん(放送用語班研究リーダー)が解説した。聞き手は佐塚元章アナ。
放送の通り対話形式で採録してもいいが長くなるので内容をまとめて文章化して報告する。
最近、テレビなどで「VTRをご覧ください」とか「先程のVTR の中で」といった表現が毎日のように聞かれる。
こうした表現に対して視聴者から、ビデオテープレコーダの機械を見てるのではないのだから「VTRを見る」という言い方はおかしい、という意見を時々いただく。
NHKの「言葉のハンドブック」にも、基本的には「VTRをご覧下さい」のような使い方は避けた方がいいという取り決めもしている。
→http://www.nhk.or.jp/bunken/research/kotoba/qq/kotoba_qq_02010101.html
実際にはどのくらい使われているか、インターネットで検索すると、
「ビデオを見る」 54万7千件ヒット
「VTRを見る」 55万6千件ヒット
と、ほとんど同じ。一般的にも同じように使用されていることが分かる。
テレビの世界を振り返ってみると、かつては録画再生の合図として「VTRスタート」とか「VTR回転」とか言っていたが、この場合は「録画再生機」という本来の意味で使っている。
ところが1980年代に、音声を含む編集済みレポートをスタジオの部分をはさんで、次々に見せていくという演出が定着した。
そうするとテレビの制作者としては、全体の構成を考えるときに、ここは
スタジオ、この部分はVTR、ここはスタジオで、またVTRというように表す
ようになった。
この場合は、録画機というより映像という意味とか、さらには映像や音声
も含めた「編集済みのレポート」という、やや抽象的な意味も含むように
なっている。
そうした業界用語だったものが一般社会でも使用されるようになったのは、
出版物での用例を検索してみると、1990年前後から「VTRで見直してみる」
「VTRでふりかえる」といった表現が出てきている。
ただこの場合は、「VTRで」は「機械で」とも「映像で」とも解釈できる。
明らかに機械ではない、「VTRを見る」という使い方が出てくるのは、1997
年頃から、とやや遅くなる。
さらに、2003年をすぎると、用例集の中で「映像」や「内容」という新しい
意味が「機械」という意味を上回るようになり、業界用語だった表現がここ
10年ほど前に一般に広まったことが分かった。
最近の辞書では「映像」という意味を載せるものが出始めている。
さらに意味が拡大するだけでなく、別の現象が起きている。
VTRが本来意味しているビデオテープレコーダーそのものが、今、姿を消し始めている。普通は、物が次第に使われなくなると、それを表す言葉も次第に使われなくなって、いわゆる「死語」になる。
「ビデオテープレコーダー」という言葉を聞くと、なんとなく古い言葉という感じがするではないか?
ところが「VTR」という言葉は、インターネットで「VTRとは何の略語か」というような質問が出るくらいに、もとの意味は大分忘れられつつあるけれども、実際に使われている。
意味が拡大しただけではなく、本来の意味からもずれてきてしまっている、という段階に入ってしまっていると思われる。
昔とは違うイメージだが、うまくそれを変えて活躍を続けている芸能人がいる。それと同じように、イメージを変えて生き残っていくという、なかなかしたたかな、たくましい言葉といえるかもしれない。
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